香木・香料のはなし -龍脳-
龍脳
香木・香料のはなしの第八回目のテーマは「龍脳(りゅうのう)」です。
龍脳は、龍脳樹という木からしみ出した樹脂が結晶化したものです。無色透明で顆粒状の結晶であり、昇華性に富んでいます。
龍脳樹はボルネオ島、スマトラ島、マレー半島などに分布するフタバガキ科の常緑大高木で、成熟したものであれば高さ50~60m、直径1~2m にもなり、幹の割れた中に龍脳が自然と結晶化していることもあります。龍脳樹の木部を細かく刻み、水蒸気蒸留して昇華させ、冷却することにより龍脳を得ることもできます。
※画像は(株)長川仁三郎商店からご提供いただきました。
ただ、これまでの乱獲や伐採により、現在では国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて絶滅寸前に分類されているほど龍脳樹は希少であり、天然龍脳は殆ど産出されないため、分子構造が似ている樟脳(しょうのう)から龍脳の主成分であるd-ボルネオールが合成されたりしています。
その香りはというと、樟脳に似ているのですが、樟脳よりも柔らかさやふくよかさが勝ります。書道に用いる墨のすがすがしく優雅さを感じさせる香りは、この龍脳によるものです。
その昔、スマトラ島の住民がこの龍脳を偶然見つけ、これを額に塗ったところ頭痛が治まったことから、神からの贈り物として重宝されたといい、古くから中国やヨーロッパなどでも頭痛、眼病、歯痛などの薬として用いられました。
また、中国では「龍の脳」と言われるほど希少で貴重なものであり、貴族たちから大変好まれました。かの玄宗皇帝は最上級の龍脳を楊貴妃に贈ったともいわれています。