ベカコのはなし
お線香の街ならではの~ベカコのある風景~
淡路市江井でお線香作りが盛んになった要因の一つに、淡路島の西海岸特有の乾燥した季節風が挙げられます。
淡路市江井は、お線香づくりを始める前は廻船問屋が軒先を並べ、大変栄えた街でした。しかし、冬場はこの季節風により瀬戸内の海は荒れることが多く、加子(船乗り)たちは生活のために杜氏(とうじ)や作男(さくおとこ)として働いていました。
そこで江戸時代の終わり頃、この冬枯れを救う対策として、泉州堺から線香づくりの技術を7軒の廻船問屋が導入したのです。
お線香の乾燥は、お線香作りの中でも重要な工程の一つです。例えば、乾燥具合や室内の湿度によって香りが変わってしまうこともあります。まさに西海岸特有の季節風が、そのように繊細なお線香の乾燥には最適でした。
昔ながらの線香工場の多くは2階が乾燥場になっています。乾燥場には、西海岸特有の季節風を最大限に活かすことのできる「ベカコ」(または「ベヤコ」)と呼ばれるスライド式の格子窓が付いています。
お線香職人は、お線香の乾燥具合や室内の湿度の状況を判断し、「ベカコ」の開き具合を都度調節しながら自然の風を取り入れつつ、7日から10日程度お線香を乾燥させます。
現在では、乾燥機を完備した乾燥室を持つ工場が増え、短期間でお線香を乾燥できるようになり、街の姿も少なからず変化したように思います。
しかしながら、街の全ての線香工場がそうなった訳ではなく、「ベカコ」を持つ線香工場も今なお多く残っています。
弊社でも、職人が昔ながらの伝統技術を駆使してお線香を手作りしている線香工場があり、もちろんそこでは「ベカコ」が現役です。
また、乾燥機を完備した乾燥室や大量生産できる機械を備えた線香工場でも、「ベカコ」を使い、自然の風でお線香を乾燥をさせる工程を意図的に取り入れることで、品質向上を計っています。
「ベカコ」のある線香工場が軒を並べる画は、お線香を盛んにつくってきた街ならではの風景です。