反魂香のはなし
反魂香
「反魂香(はんごんこう)」という伝説上の香があります。この香を焚けば、その煙の中に亡くなった人が現れるといわれています。中唐の詩人である白居易の「李夫人詩」にその名があり、前漢の武帝が李夫人を亡くし深い悲しみに暮れていた時、道士に霊薬を整えさせ、玉の釜で煎じて練った反魂香を金炉で焚き上げたところ、煙の中に夫人の姿が見えた、とのことです。
この反魂香については、日本でも江戸時代に浄瑠璃や歌舞伎、読本(よみほん)などの題材としてしばしば取り上げられてきました。その中で今回は、落語の「反魂香」という演目を取り上げます。
主人公の八五郎は、同じ長屋に住む坊主のところから夜中にカネを叩く音が聞こえるので、やめてくれと掛け合いに行きます。すると、坊主はかつて愛する人を亡くし、その人との約束で反魂香を焚きながら回向をしているのだ、と言います。実際に坊主が反魂香を焚くと、その愛する人の姿が煙の中に現れたのです。
これを見た八五郎自身も数年前に女房を亡くしており、坊主に反魂香を分けてくれないかとお願いします。しかし、この香は私と愛する人ためのものだから譲れないと断られてしまいます。
そこで八五郎は薬屋にこの香を探しに行きます。しかし、肝心のお香の名前を忘れてしまい、間違えて越中富山の「反魂丹」(胃痛・腹痛の薬)を買ってきて、これを長屋で大量に焚いてひと騒動を起こしてしまう…というコミカルなストーリーです。
八五郎という男、ちょっと間が抜けていますが、実は女房思いの憎めないキャラクターです。そして、この時代、香が庶民にまで広がり、生活文化の一つとして定着していることを伺い知ることができます。
ちなみに、八五郎が反魂香と間違えた反魂丹ですが、今でも販売されています。香も薬も、良いものに時代は関係無いのかも知れませんね。