「香り」と「薫り」のはなし
「香り」と「薫り」
お香やお線香の中でも使われる「香」という文字は、「黍(きび)」と「甘」という二つの文字を組み合わせることで成り立っています。
ご存知のとおり、黍は穀物の一種です。四千年以上も前から、中国の華北では粟(あわ)と並ぶ主要穀物であり、日本へも弥生時代に朝鮮半島を経由して渡来したと言われています。古代からお酒の原料としても用いられてきました。また、「甘」は口にものを含んだ形で、長く口中で含み味わうということから「うまい」・「あまい」という意味になります。
よって「香」という文字は、黍を茹でた時に生じるあまい香りを現している、と言われています。
そして、訓読みでは同じ「かおり」と読み、「香」と似たような意味を持つ「薫」という文字があります。弊社の社名、「梅薫堂」の中でも使われていますね。
この「薫」という文字は、袋に入った香草を火であぶった形からできた象形文字で、香草をいぶし・くゆらせることで、香草の匂いが立ちこめている様を現しています。なお、このようにいぶし・くゆらせることを「薫」という文字を使って、「薫(た)く」と表現する場合もあります。
これらの字源を踏まえて、火を点けて楽しむお香やお線香の場合には「薫り」や「薫く」という言葉を選んで使われる方も多くいらっしゃいます。
また、文化庁 文化審議会国語分科会が平成26年2月21日に発表した『「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)』によれば、「香り」と「薫り」について下記のようにあります。
【香り・香る】鼻で感じられる良い匂い。
茶の香り。香水の香り。菊が香る。梅の花が香る。
【薫り・薫る】主に比喩的あるいは抽象的なかおり。
文化の薫り。初夏の薫り。菊薫る佳日。風薫る五月。
「香り」と「薫り」、現代ではほとんど同じような意味で用いられている言葉かもしれませんが、状況に応じて使い分けてみるというのもなかなか風流なものかも知れません。