結納とお線香のはなし
結納で線香を贈る風習
結納のとき、お線香を贈られてビックリした、という話をお聞きしたことがあります。「お線香」というと、亡くなった方に捧げるものというイメージが強いためか、どうしても違和感を感じてしまうのかもしれません。
しかしながら、このようなおめでたい席でもお線香を贈ることがあります。婚姻は、お互いの家同士のご先祖様の深い結びつきによって生まれると考えられるため、相手のご先祖様への敬意や感謝の意を込めて、お線香を贈るのです。また、仏教では香りや煙はご先祖様にとっての食べ物だと言われていますので、ご先祖様へのお土産として仏前に御馳走をお出しする、という意味合いがあります。
このような風習には馴染みのない方もいらっしゃると思いますが、北陸・近畿・中国地方などで多く見受けられます。慶事仕立ての美しい装丁の箱に入ったお線香が贈られます。
私たちが今を生き、素晴らしい相手と巡り合うことができるのも、ご先祖様がいてくれたからこそです。ご先祖様への敬意や感謝の気持ちも、末永く大切にしなければならないものなのだと思います。
ちなみに余談ですが、江戸時代、大名や武家、富豪などの嫁入り道具のひとつには必ず香道具が含まれていました。三代将軍家光公の娘である娘千代姫(ちよひめ)が、尾張家二代光友(みつとも)に婚嫁する際持参した「初音の調度」にも香道具が含まれています。「初音の調度」は国宝にも指定され、日本一豪華な嫁入り道具ともいわれています。