香木・香料のはなし -乳香-
乳香
香木・香料のはなしの第五回目のテーマは「乳香(にゅうこう)」です。
乳香(にゅうこう)は、熱帯の地域に育つ常緑低木であるカンラン科ボスウェリア属の樹脂のことです。樹皮に切れ込みを入れると、染み出した樹液は透明から乳白色に変わり、それがミルクのようなので乳香(にゅうこう)と呼ばれます。主にソマリア、エチオピア、オマーンなどで生産されています。
※画像は(株)長川仁三郎商店からご提供いただきました。
乳香は、西洋では「フランキンセンス」や「オリバナム」と呼ばれます。「フランキンセンス」は英語で「Frankincense」と表記しますが、もともとは、中世フランス語の「franc(真の)」と「encense(香り)」の二つの単語が合わさったものに由来します。また、「オリバナム」はアラビア語の「乳」という単語が語源です。
紀元前40世紀のエジプトの墳墓から埋葬品として発掘されており、古代エジプトでは神に捧げる神聖な薫香として用いられていたと言われています。日本では馴染みが薄いかもしれませんが、西洋では大昔から宗教的な儀式に欠かせないものでした。また、樹木は栽培して増やすことが難かしく、かつては同じ重さの金と取引されたこともあるそうです。
「旧約聖書」には、シバの女王がイスラエルのソロモン王の博識を確かめるために、「黄金」・「宝石」・「白檀」・「乳香」などを携えた遣いの者をソロモン王に送った、という逸話が記されています。
また、「新約聖書」には、イエス・キリストの誕生を祝し、東方の三賢人(博士)が「黄金」・「乳香」・「没薬(もつやく)」を捧げたという逸話が記されています。ちなみに、「黄金」は「王権」を、「没薬」は「死」を、「乳香」は「神権」を象徴しており、救世主に捧げるに相応しいものと考えられていました。
乳香の香りは、森林を彷彿させるような爽やかで清涼感のある香りで、不安を和らげ、前向きな気持ちにするような効果があると言われています。