さしのはなし
さし
先日、粉練工場(お線香の材料を混ぜ合わせ、線状に押し出す前の『練玉』を制作する工場。詳細は「お線香作りについて」をご参照ください。)を整理していると、下の写真のような竹でできた棒のようなものが出てきました。これ、一体何だか分かりますか?
正解は、『さし』という検査器具です。写真の『さし』は古いものですが、現在でも食品検査などにおいて、袋詰めされた米やコーヒー豆等の品質を検査するとき、これを袋に刺し込み中身の米やコーヒー豆を抜き出すために使われていますので、ご存知の方もいらっしゃるのではないかと思います。『米刺(こめさし)』・『穀刺(こくさし)』とも呼ばれ、現代では素材は竹ではなく、金属が使われるケースが多いようです。
一昔前は、お線香製造においても、お線香の材料となる杉粉やたぶ粉の原料袋にもこの『さし』を刺して原料を抜き出し、品質検査を行っていました。
よく見ると、この『さし』にはかつて吉井家が廻船問屋を営んでいた頃の「吉」のマークと、持ち船の「宝栄丸」という船名が彫り込まれています。
これは単に持ち主を記している訳ではなく、組織内で統一された『さし』を検査で使うことで、「さし」の違いによる検査品質のムラを無くしたり、検査時に過剰な分量を抜き取るような不正を防止するといった意味があったのではないかと推測しています。つまりは、お線香の品質確保のため・取引先様やお客様に信頼いただくための先人の知恵だったのではないかと考えます。
現代では、お線香の製造において「さし」が使われることはなくなりましたが、かつての線香製造風景の名残りを思わせるとともに、弊社のルーツを示す貴重な資料であると思います。